テレワークの導入が進む中、企業が頭を悩ませているのが従業員の労働時間をどう正確に把握するかという問題だ。オフィス勤務ならタイムカードやICカードで簡単に管理できた出退勤も、テレワークでは「本当にその時間に働いていたのか」を確認しにくくなる。
この記事では、テレワークにおける労働時間把握の方法と課題を整理し、厚生労働省のガイドラインに基づいた適切な管理方法を解説していく。企業の管理者だけでなく、テレワークで働く従業員にも役立つ内容になっている。

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なぜテレワークの労働時間把握は難しいのか
目の前に従業員がいない問題
オフィス勤務であれば、管理者は従業員が席にいるかどうかを目視で確認できる。しかしテレワークでは従業員の業務遂行状況を直接目で確認する手段がないため、働いている時間帯の把握が難しくなる。
中抜け・私用時間の扱い
テレワークでは「子どもの送迎で30分抜ける」「荷物の受け取りで5分離席する」といった中抜けが日常的に発生する。こうした短時間の中断をどう扱うか(労働時間に含めるか、休憩とするか)のルールが曖昧になりやすい。
隠れ残業・サービス残業のリスク
テレワークでは仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちだ。「退勤」を打刻した後にメールを確認して対応してしまうなど、記録に残らない隠れ残業が発生しやすい環境がある。
労働時間制度の複雑さ
テレワークでは通常の労働時間制のほか、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制など、複数の制度が適用される可能性がある。制度ごとに労働時間の把握方法が異なるため、管理の複雑さが増す。
制度ごとの違いを行政資料だけで整理するのは骨が折れる。テレワークの就業規則づくりを扱った実務書なら、規程のひな形と運用例がセットで載っているため、自社の制度設計の下敷きにしやすい。
厚生労働省は「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」において、テレワークでも適切に労働時間を管理・把握する義務を使用者に課している。
テレワークの労働時間を把握する5つの方法
1. クラウド勤怠管理システムの活用
もっとも一般的かつ効率的な方法が、クラウド型の勤怠管理システムを導入すること。PCやスマートフォンからワンクリックで出退勤の打刻ができ、リアルタイムで労働時間が集計される。
代表的なサービスには以下のようなものがある。
- ジョブカン勤怠管理
- KING OF TIME
- マネーフォワード クラウド勤怠
- ジンジャー(jinjer)勤怠
- freee勤怠管理Plus
これらのサービスはGPS打刻やPC起動ログとの連携機能を持つものも多く、テレワーク環境での労働時間把握に適している。
2. PCログの活用
PCの起動・シャットダウンログを出退勤の記録として活用する方法だ。勤怠管理システムの打刻データとPCログを照合することで、打刻の正確性を検証できる。
厚生労働省のガイドラインでも「パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録」を労働時間把握の方法として挙げている。

3. 自己申告制(適正な運用が条件)
従業員自らが始業・終業時刻を申告する方法。Excelやスプレッドシートへの入力、メールやチャットでの報告といった形式が多い。
ただし自己申告制には「実態と申告のズレ」というリスクがある。厚生労働省は、自己申告制を採用する場合でも、PCログ等の客観的な記録と照合して実態を確認することを求めている。
4. 始業・終業時のメール・チャット報告
「おはようございます。業務開始します」「本日の業務を終了します」といったメッセージを上司やチームに送信する方法。簡便ではあるが、あくまで補助的な方法であり、これだけで労働時間を適正に把握できるとは言い難い。
5. 業務管理ツールとの連携
タスク管理ツール(Asana、Trello、Backlogなど)やプロジェクト管理ツールのログを、労働時間管理と連動させる方法。「どの業務にどのくらいの時間をかけたか」が記録されるため、単なる出退勤の管理を超えた業務内容の見える化にもつながる。
おすすめは「クラウド勤怠管理システム + PCログ照合」の組み合わせ。打刻データと客観的記録の両方が揃うことで、正確な労働時間の把握が可能になる。
厚生労働省のガイドラインが求めていること
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
厚生労働省は2017年にこのガイドラインを策定し、テレワークを含むすべての勤務形態において、使用者が労働時間を適正に把握する義務を明確にした。ガイドラインの主なポイントは以下のとおりだ。
- 原則として客観的な方法による把握(PCログ、ICカードなど)
- やむを得ず自己申告制を採用する場合は、申告と客観的記録の照合を実施すること
- 賃金台帳への適正な記入(労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数)
- 記録の保存期間は5年間(当面の間は3年間)
数年分の勤怠データやPCログを残すとなると、保存先も考えておく必要がある。クラウドに置くだけでなく手元にもコピーを残すなら、容量単価の安い外付けHDDが扱いやすい。
テレワーク特有のルール
テレワークガイドライン(2021年改定)では、以下のテレワーク特有の論点にも言及している。
- テレワーク中の中抜け時間の取り扱い(休憩時間として扱う等)
- テレワーク中の移動時間の取り扱い
- テレワークでも36協定の遵守が必要であること
- フレックスタイム制やみなし労働時間制をテレワークに適用する場合の留意点

中抜け時間の管理方法
休憩時間として処理する方法
テレワーク中の中抜け時間を休憩時間として処理する方法がもっとも一般的だ。この場合、中抜けの開始時刻と終了時刻を記録し、その分だけ終業時刻を後ろにずらすことで、所定労働時間を確保する。
システムに中抜け用の入力欄がない場合は、手元の紙で控えておく運用でも構いません。日付と時刻の欄が並んだ市販の出勤簿を使えば、月末にまとめて申告するときも記憶に頼らずに済みます。
時間単位の年次有給休暇として処理する方法
労使協定に基づき、中抜け時間を時間単位の年次有給休暇として取り扱う方法もある。ただし、従業員本人の申請が必要であり、会社側が一方的に年休扱いにすることはできない。
テレワークの労働時間管理に関するQ&A
Q. テレワークでも残業代は支払われる?
テレワークであっても、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた労働には残業代の支払いが義務付けられている。テレワークだからといって残業代が発生しないということはない。
Q. 事業場外みなし労働時間制はテレワークに適用できる?
厚生労働省のガイドラインによれば、テレワーク中に常時通信可能な状態にある場合は「労働時間を算定しがたい」とは言えず、みなし労働時間制の適用は困難とされている。実質的に企業の管理下にある場合は通常の労働時間管理が必要だ。
Q. 深夜にメール対応した場合は深夜手当の対象?
22時から翌5時までの時間帯に業務を行った場合は、深夜割増賃金の対象になる。ただし、従業員が自発的にメールを確認しただけの場合と、上司からの指示で対応した場合では扱いが異なる。就業規則で深夜業務に関するルールを明確にしておくことが重要だ。
Q. テレワークの労働時間を従業員自身が証明するにはどうすれば?
自分の日報や作業ログ、メール送信履歴、チャットの活動ログなどが証拠として有効だ。特にサービス残業が疑われる場合は、自分の記録を残しておくことで権利を主張しやすくなる。

テレワークの労働時間把握で企業が陥りがちなミス
自己申告だけに頼ってしまう
テレワークの労働時間を従業員の自己申告だけで把握しようとする企業は少なくないが、これだけでは不十分だ。客観的な記録(PCログ等)と照合しないと実態との乖離が生じやすい。厚生労働省も自己申告制だけに頼らず、客観的な方法と組み合わせるよう求めている。
深夜・休日の業務を把握できていない
テレワークでは「退勤後にちょっとだけメール対応」「休日に1時間だけ作業」といった断片的な業務が発生しやすい。これらの隠れ労働時間を把握できないと、適切な割増賃金の支払いが行われないリスクがある。PCログと勤怠システムの照合により、深夜・休日の業務も把握できる仕組みを整えよう。
割増率の異なる時間帯が混ざる月は、集計結果を一度手計算で検算しておくと安心です。時間計算に対応した実務向けの電卓なら、時分の足し引きをそのまま扱えます。
中抜けのルールが曖昧なまま運用している
テレワーク中の中抜け(子どもの送迎、通院、荷物受け取りなど)を認めていても、記録方法やルールが曖昧だと実労働時間の計算が不正確になる。中抜けの開始・終了時刻の記録方法を明文化し、テレワーク規程に盛り込むことが大切だ。

労働時間の把握方法を選ぶ際のポイント
企業規模に合わせて選ぶ
従業員数が少ない中小企業であれば、スプレッドシートでの自己申告+メール報告でも対応可能な場合がある。一方、従業員数が多い企業では、クラウド勤怠管理システムの導入が効率的で正確だ。費用対効果を考慮して、自社の規模に合った方法を選ぼう。
既存の労務管理システムとの連携
給与計算ソフトや人事管理システムを既に導入している場合は、それらとデータ連携できるテレワーク向けの勤怠管理ツールを選ぶと、労働時間のデータを一元管理できて便利だ。
まとめ
テレワークにおける労働時間の適正な把握は、企業の義務であると同時に、従業員の権利を守るためにも不可欠だ。クラウド勤怠管理システムの導入とPCログの活用を基本とし、中抜け時間のルールや残業管理の仕組みも整備していこう。
厚生労働省のガイドラインに沿った運用を行うことで、企業も従業員も安心してテレワークを続けられる環境が整う。
参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
参考:ジンジャー「テレワーク・在宅勤務導入後の労働時間管理におすすめな方法」
参考:マネーフォワード クラウド「テレワークの勤怠管理の方法は?」
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