テレワークの導入が進んだことで、多くの企業が「交通費をどう支給するか」という問題に直面しています。
従来は定期券代を毎月支給していた企業がほとんどでしたが、出社日数が減ったことで定期代を丸ごと支給するのは不合理という声が増えてきました。実費精算に切り替える企業もあれば、在宅勤務手当を新設してバランスを取る企業もあり、対応はさまざまです。
この記事では、テレワーク時の交通費支給にまつわる基準の考え方や、実費精算・定期代廃止の判断ポイント、在宅勤務手当との併用方法について詳しく解説します。自社の交通費制度を見直す際の参考にしてください。

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テレワーク時代の交通費支給で起きている変化
定期代支給から実費精算への移行が加速
テレワーク以前は、ほぼすべての企業が通勤定期券代を月額で支給していました。しかしテレワーク導入後、週1〜2回しか出社しない社員にフル定期代を支払い続けるのはコスト面で合理的ではありません。出社日数に応じた実費精算に切り替える企業が増えているのが現状です。
たとえば、往復の交通費が1,000円のルートで月に8回出社する場合、実費は8,000円です。一方、同じルートの定期代が月15,000円だとすると、実費精算のほうが7,000円安くなります。テレワークの頻度が高い企業ほど、実費精算への移行メリットは大きくなります。こうした動きは大手IT企業から始まり、記事執筆時点では中小企業にも広がりつつあります。
定期代と実費精算の損益分岐点
一般的に、出社日数が月の半分以下(月10日以下)であれば実費精算のほうが安くなるケースが多いとされています。ただし、交通機関や距離によって異なるため、具体的なシミュレーションが必要です。交通系ICカードの利用履歴データを活用すれば、社員ごとの最適な支給方法を算出することも可能です。
履歴を手作業で書き写すのは負担が大きいため、PCに接続するICカードリーダーを使う方法もあります。カードをかざすだけで乗車履歴を読み取れるので、精算資料の作成が一気に楽になります。
損益分岐点の計算方法:「定期券代 ÷ 1日あたりの往復交通費 = 損益分岐の出社日数」。この日数を超えて出社する場合は定期代のほうがお得、下回るなら実費精算が合理的です。
ハイブリッドワークの普及で複雑化
週3日出社・週2日テレワークのようなハイブリッドワークが広がったことで、部署やチームによって出社頻度が異なるケースも珍しくなくなりました。そのため、全社一律のルールでは対応しきれず、部署単位や個人単位で交通費の支給方法を選べる仕組みを導入する企業も出てきています。人事部門にとっては運用負荷が増えますが、社員の納得感を高めるためには柔軟な対応が必要です。

交通費の非課税ルールを正しく理解する
公共交通機関の非課税限度額
電車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤する場合、通勤手当の非課税限度額は1か月あたり15万円です(参考:マネーフォワード 通勤手当の非課税限度額)。この限度額を超えた分は給与所得として課税されます。テレワーク時の実費精算であっても、この非課税枠の適用を受けることができます。多くの社員の通勤費はこの限度額内に収まるため、実務上は非課税として処理されているケースがほとんどです。
テレワーク主体の場合の実費精算と非課税
テレワークが主体で、出社日に交通費を実費精算する場合についても、国税庁は見解を示しています。企業が従業員の通勤費を実費で精算し、その金額が通勤に通常かかる費用として合理的であれば、非課税の通勤手当として扱えるとされています。つまり、定期代ではなく実費精算に変えたからといって課税されるわけではないため、安心して切り替えることができます。
自家用車通勤の非課税限度額
自家用車やバイクで通勤する場合の非課税限度額は、通勤距離に応じて段階的に設定されています。片道2km以上10km未満で4,200円、10km以上15km未満で7,100円といった具合です。なお、2026年4月施行の改正により、片道65km以上の場合の非課税限度額が引き上げられました(参考:電通総研 通勤手当の非課税制度)。地方在住のテレワーカーにとっては嬉しい改正です。
交通費支給の基準を決めるときのチェックポイント
出社頻度に応じたルール設計
交通費支給のルールを決める際には、まず自社の出社パターンを把握することが重要です。一般的には以下のような区分が多く見られます。
- 週4〜5日出社:従来どおり定期代を支給
- 週2〜3日出社:定期代と実費精算を比較し、安いほうを支給
- 週1日以下の出社:実費精算に統一
- フルリモート:通勤手当を廃止し、在宅勤務手当に切り替え
就業規則に「テレワーク勤務者の交通費は出社日の実費精算とする」と明記しておくことで、運用のブレを防ぐことができます。あわせて、出社日数の確認方法(勤怠データとの照合など)も規定しておくとトラブルを防げます。
在宅勤務手当との併用を検討する
交通費を削減した分を在宅勤務手当に充てる企業も増えています。在宅勤務手当の相場は月額3,000円〜5,000円程度が一般的で、光熱費や通信費の補填を目的としています(参考:マネーフォワード 在宅勤務手当の相場)。より手厚い企業では月額10,000円程度を支給しているところもあり、テレワーク社員の満足度向上に貢献しています。
手当が実態に見合っているかを判断するには、実際の使用量を知るのが早道です。コンセントに挟むだけで消費電力を測れるワットチェッカーを使えば、PCやエアコンが1日にどれだけ電気を使っているかを数字で確認できます。
在宅勤務手当は原則として給与所得に含まれ、課税対象になります。ただし、実費を精算する方式(実際にかかった通信費・電気代を計算して支給する方式)であれば非課税として扱える場合があります。自社の支給方式について税理士や社労士に確認しておくことをおすすめします。
社会保険料への影響
通勤手当は社会保険料の算定基礎に含まれますが、テレワーク主体の従業員が出社時に立て替えた交通費を企業が精算する場合は「実費弁償」として報酬に含めなくてよいとされています。ただし、この取り扱いは「労務提供の場所が自宅」であることが前提です。就業規則上のテレワーク勤務地の定義を明確にしておくことが大切です。実費弁償として扱えれば、社会保険料の削減効果も見込めます。

実費精算に切り替えるときの注意点
就業規則の変更手続きが必要
通勤手当の支給方法を変えるのは「労働条件の変更」にあたります。就業規則の変更には、従業員への周知と労働基準監督署への届出が必要です。とくに、定期代支給から実費精算への変更は従業員にとって不利益になるケースもあるため、丁寧な説明と理解を得るプロセスが重要です。変更の理由、影響範囲、代替措置(在宅勤務手当の新設など)をセットで説明すると、社員の理解を得やすくなります。
不公平感を解消する工夫
テレワークの頻度は部署や業務内容によって異なるため、交通費の支給額にも差が出ます。「テレワークできない部署の社員だけ定期代がもらえる」という不満が生まれないよう、在宅勤務手当をテレワーク勤務者に支給するなどの配慮が求められます。また、テレワークの可否によって総支給額に大きな差が出ないよう、手当全体のバランスを考慮して設計することが重要です。
経費精算の仕組みを整える
実費精算に切り替えると、毎月の交通費申請が発生します。紙の申請書では管理が煩雑になるため、クラウド型の経費精算ツールの導入がおすすめです。ICカードの利用履歴を自動取り込みできるサービスを使えば、申請の手間と承認の負荷を大幅に削減できます。マネーフォワードクラウド経費やジョブカン経費精算など、テレワーク環境に対応したサービスが多数あります。
ツール導入までのつなぎとして、あるいは原本の保管用として、レシートを日付順に差し込めるファイルを1冊用意しておくと管理が安定します。月ごとに分けられるタイプなら、申請漏れにも気づきやすくなります。
テレワーク時の交通費支給についてよくある質問
Q. テレワーク日の交通費は自己負担になりますか?
テレワーク日は自宅で業務を行うため、通勤そのものが発生しません。そのため、テレワーク日に交通費が支給されないのは法的にも問題ありません。ただし、テレワーク日に急遽出社が必要になった場合の交通費をどう扱うかは、あらかじめルールを決めておくと安心です。「急な出社は実費を申請可」としている企業が多いです。
Q. 実費精算にすると社員の手取りが減りませんか?
定期代より実費精算のほうが支給額が少なくなるケースでは、手取りが減ったと感じる社員もいます。在宅勤務手当を新設して差額を補填したり、浮いた定期代の一部を環境整備費として支給する方法で、社員の負担感を軽減している企業もあります。重要なのは、トータルでの待遇が下がらないよう配慮することです。
Q. テレワーク中にカフェで仕事をした場合の交通費はどうなりますか?
自宅以外の場所(カフェやコワーキングスペースなど)で業務を行った場合の移動費は、原則として通勤手当とは別の扱いになります。会社が「サテライトオフィス勤務」として認める場合はその移動費を支給するケースもありますが、個人の判断で利用した場合は自己負担が一般的です。サテライトオフィスの利用を制度として整備する企業も増えています。
Q. 通勤定期を解約する際の手続きは?
実費精算に切り替える場合、社員が保有している通勤定期の扱いも整理が必要です。定期の残期間分の払い戻し手続きをサポートし、切り替え日を明確にしましょう。払い戻し手数料は会社が負担するのが一般的です。
定期券をやめてICカードのチャージ運用に切り替えると、カードの持ち歩き方も変わります。定期券入れをそのまま使う人が多いですが、社員証と一体で持ちたい場合は2枚差しできるパスケースが便利です。

交通費の支給基準を見直す際は、「就業規則への明記」「社員への丁寧な説明」「経費精算の仕組みづくり」の3点をセットで進めるのがおすすめです。制度変更は社員のモチベーションに直結するため、一方的な通知ではなく双方向のコミュニケーションを大切にしましょう。
まとめ
テレワークの普及により、交通費の支給基準は大きく変わりつつあります。定期代の一律支給から実費精算への切り替えは、企業のコスト削減につながる一方で、社員の不公平感を生まないための配慮も欠かせません。
まずは自社の出社頻度を把握し、定期代と実費精算の損益分岐点を計算することが第一歩です。そのうえで、在宅勤務手当の新設や選択制の導入など、社員にとって納得感のある仕組みを構築していきましょう。
非課税限度額や社会保険料の取り扱いなど、税務・労務面のルールも確認しながら、就業規則に明確な基準を盛り込むことが大切です。テレワーク時代にふさわしい交通費の仕組みを整えることで、社員が安心して働ける環境づくりにつながります。
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